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最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)31号 判決

上告人

右訴訟代理人弁護士

藤島昭

岩渕正紀

東松文雄

村本道夫

奈良輝久

和田希志子

加藤義樹

土赤弘子

植木修一

被上告人

検事総長

土肥孝治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤島昭、同岩渕正紀、同東松文雄、同村本道夫、同奈良輝久、同和田希志子、同加藤義樹、同土赤弘子、同植木修一の上告理由第一点ないし第六点について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、右と異なる見解に基づいて原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものであって、採用することができない。

同第七点について

公職選挙法二五一条の三の規定は、いわゆる連座の対象者を選挙運動の総括主宰者等に限っていた従来の連座制では選挙犯罪を十分抑制することができなかったという我が国における選挙の実態にかんがみ、連座の対象者の範囲を拡大し、公職の候補者等に組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための選挙浄化の義務を課し、公職の候補者等がこれを怠ったときは、当該候補者等を制裁し、選挙の公明、適正を回復するという趣旨で設けられたものと解するのが相当である。このように、同条の規定は、公明かつ適正な公職選挙の実現という極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。また、右規定は、組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯し禁銅以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとし、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も限定し、さらに、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には免責することとしているほか、候補者等が当該組織的選挙運動管理者等による選挙犯罪行為の発生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみちも新たに設けているのである。そうすると、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。したがって、公職選挙法二五一条の三の規定は、憲法一三条、一四条、一五条一項、三一条、三二条、四三条一項及び九三条二項に違反するものではない。そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、法二五一条の三の規定を本件に適用して上告人の当選を無効とし、立候補の制限をすることも、憲法の右各規定に違反しないものというべきである。以上のように解すべきことは、最高裁昭和三六年(オ)第一〇二七号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三〇頁、最高裁昭和三六年(オ)第一一〇六号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三七頁及び最高裁昭和二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日大法廷判決・刑集九巻二号二一七頁の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成八年(行ツ)第一九三号同九年三月一三日第一小法廷判決・民集五一巻三号登載予定参照)。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

そして、公職選挙法二五一条の三第一項所定の組織的選挙運動管理者等の概念は、同項に定義されたところに照らせば、不明確であるということはできず、この点に関する所論違憲の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない(最高裁平成八年(行ツ)第一七四号同年一一月二六日第三小法廷判決及び前掲第一小法廷判決参照)。

論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大野正男 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信 裁判官山口繁)

上告代理人藤島昭、同岩渕正紀、同東松文雄、同村本道夫、同奈良輝久、同和田希志子、同加藤義樹、同土赤弘子、同植木修一の上告理由

上告理由第一点〜第六点〈省略〉

上告理由第七点

新連座制を定めた法二五一条の三は、憲法一三条、三一条、三二条、一五条、一四条に違反する違憲無効の規定であり、本件に適用することはできない。

一 法二五一条の三の制定経過

法二五一条の三が憲法一三条、三一条、三二条、一五条、一四条に違反する違憲の規定であることは、後に述べるとおりであるが、その検討の前提として、同条の制定経過を概観することが必要である。

1 我が国に初めて連座制を導入した大正一四年法律第四七号の衆議院議員選挙法では、連座の対象は「選挙事務長」のみであり、そこに、同法の昭和九年法律第四九号による改正で、「選挙事務長ニ非ズシテ事実上選挙運動ヲ総括主宰シタル者」が加えられ、昭和二〇年には、選挙事務長制度が廃止されたことに伴い、「選挙運動ヲ総括主宰シタル者」が連座制の対象者とされた。その後の公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇号)では、「選挙運動を総括主宰した者」(同法二五一条一項)及び「出納責任者」(同法二五一条二項)が対象者とされた。これら連座制の対象者は、選挙運動員に対する指揮統括権を有するなど、候補者等の意を受けて選挙運動の中枢に位置する者に限定されていた。

そして、連座制の効果としては、当選無効のみが規定され、また、当選者が対象者の選任及び監督につき「相当の注意」をしたことが免責事由とされていた。

2 右の免責事由は、昭和二九年法律第二〇七号による改正により、次のとおり大きく変化した。すなわち、この改正においては、連座の対象者及び効果は従来のままであったが、免責事由の「相当の注意」が削除され、いわゆる「おとり」「寝返り」行為が新しく免責事由とされたのである。

更に、昭和三七年法律第一一二号による改正では、新たな対象者として、「地域主宰者」及び「候補者と同居の親族」が加わり、免責事由については、「おとり」、「寝返り」行為も含めて一切認めないということになった。

3 平成六年法律第二号による改正では、対象者が更に広がって、「公職の候補者等の秘書」が新たに加えられ、従来対象者となっていた「親族」の範囲も広げられた。

この改正では、免責事由として、「おとり」「寝返り」行為が再び定められたが、連座の効果として、当選無効に加え、新たに五年間の立候補禁止という厳しい定めがおかれた。

4 一方、平成六年法律第二号と同時(平成六年一二月二五日)に施行された平成六年法律第一〇五号による改正により、連座制の対象者として、新たに「組織的選挙運動管理者等」を加えた(法二五一条の三第一項)。

これは、免責事由として「相当の注意」を規定しているものの、それまでの連座制対象者と異なり、選挙運動の末端の者をも連座の対象として含ませることを可能とするものであり、連座の効果としては、従来型と同様当選無効及び五年間の立候補禁止が定められている。

二 現行連座制の特徴

1 連座制の変遷

以上の法改正経過から明らかなように、連座制は、もともと「総括主宰者」等を対象とする当選無効のみを定めていたものが、対象者を「組織的選挙運動管理者等」にまで拡大し、効果も当選無効にとどまらず五年間の立候補禁止を加えるというように大きな質的変化を遂げてきたものである。

2 現行連座制の類型

現行連座制の合憲性を検討するに当たっては、前記のとおりの法改正経過を踏まえ、次のとおりの四類型に分類して考察するのが便宜である。

すなわち、①主宰者違反・当選無効型、②主宰者違反・立候補禁止型、③運動管理者違反・当選無効型、④運動管理者違反・立候補禁止型の四類型である。

3 各類型の特徴

(一) 主宰者違反・当選無効型

この類型は、旧来の連座制が想定していたいわば基本型である。この類型の連座制の合憲性については、後に述べるとおり、既に最高裁大法廷(昭和三七年三月一四日判決・民集一六巻三号五三七頁)においてこれを肯定する判断が示されているが、そこでは、主宰者の選挙犯罪行為が候補者の当選に相当な影響を与え、得票も選挙人の自由意思によるものといえないことから、当選を無効とすることが選挙の公明・適正を確保しようとする選挙制度の本旨にかなう所以であることが強調されている。

(二) 主宰者違反・立候補禁止型

この類型は、前述のように、平成六年法律第二号による改正により付け加えられたもので、旧来の連座制の効果をより一層強化しようとする意図の下に設けられたものであるが、その趣旨は、選挙の公明・適正の確保にとどまらず、候補者個人に対する制裁を含むものといえる。この類型の合憲性については、未だ確定した司法判断を受けていない。

(三) 運動管理者違反・当選無効型

この類型は、前述のように、平成六年法律第一〇五号による改正により新設された類型である。これは連座の要件に関し、その対象者を拡大しようとする意図のもとに設けられたものであるが、ここにいう「組織的選挙運動管理者等」という文言は、従来の連座対象者である「総括主宰者」、「秘書」等という、その文言自体で明確に限定された意味内容を有する用語と異なり、解釈次第でどのようにも拡張することができる可能性を内包する用語であって、選挙運動の末端の者さえ対象者となし得るものである。この類型についても、その合憲性について司法判断を経ていない。

(四) 運動管理者違反・立候補禁止型

この類型については、要件については(三)と同様の問題を包含し、効果の面では(二)と同様の観点から検討する必要があるものであり、その合憲性の判断は、右の両者を重畳的に総合して行う必要があるといえる。

4 各類型の異同

前記四類型の異同は、それぞれの連座の制度の趣旨ないし目的そのものの違いから生じるものである。

従来から存在した主宰者違反・当選無効型の連座制は、選挙運動において枢要な地位を占める総括主宰者らが悪質な選挙違反を犯した場合には、その候補者等のための選挙運動の全体が悪質な方法で行われたことが客観的に推認されるとして、その不公平な選挙方法で得られた結果(当選)を否定し、客観的に不公正な方法で得られた選挙結果を覆して、選挙の公正を回復するという点に、制度の趣旨ないし目的があったのである。

このような主宰者違反・当選無効型の連座制の趣旨ないし目的の理解は、後に述べるとおり判例の立場であるとともに、古くからの一般的理解に沿うものであり、例えば従来の指導的学説も、総括主宰者が選挙犯罪により刑に処せられた場合は、「選挙運動が全体として不正であったと推定すべきものと為し」当該当選者の当選を無効ならしめるものである、と論じているのである(美濃部達吉・選挙争訟及当選争訟の研究三六九〜三七〇頁)。

これに対し、主宰者違反・立候補禁止型の連座制は、主宰者違反・当選無効型の連座制についてその効果をより強化したものと評価することができるが、将来の立候補を禁止することは、選挙の公正の回復という選挙制度自体に本来的に内在する要請を超えるものであり、候補者に対する制裁的な面を併せ持つものといわざるを得ない。

更に、運動管理者・当選無効型及び運動管理者・立候補禁止型の連座制は、「「候補者本人帰責型」ともいうべき新しい類型の連座制で、候補者等に対して選挙浄化に関する厳しい責任を負わせ、候補者等自らの手で徹底的な選挙浄化を行わせることにより、腐敗選挙の一掃を図ろうとするものであり、候補者等がこの選挙浄化責任を果たさなかった場合には、当選無効及び立候補制限という一種の制裁を科すことにしている。」とされ(選挙腐敗防止法の解説」六二頁)、改正法の提案議員も、「公職の候補者等と意思を通じて組織により行われる選挙運動で、その組織的選挙運動体の内部において一定の地位にあるものが買収罪等の選挙犯罪を犯した場合に、候補者本人の選挙運動浄化の責任を問う新しい連座の制度を設けることといたしました。」

「候補者等の選挙浄化に対する責任を問うという新たな観点から、連座の対象を選挙運動を行う組織体における末端の責任者まで拡大し」ておりますと述べている(第一三一回国会調査特別委員会議事録第二号二〜三頁)ことからも明らかなように、その趣旨及び目的において、主宰者違反・当選無効型の連座制と大きく異なるものであり、候補者等に対する「制裁」がその主眼であることは明らかである。

三 憲法一三条違反

1 連座制と憲法一三条

憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を必要とする。」と定める。公職選挙法に基づく連座制の規定も、右憲法の定めに適合したものでなければならないことはいうまでもない。

ところで、本件で問題とされる連座制は、候補者と一定の関係を有する者が選挙犯罪によって有罪とされたことに基づき、候補者の当該選挙における当選を無効とし、更に、将来長期間にわたって立候補を禁止するという不利益を課すものであるが、他人が有罪とされたことにより、何故に候補者がこのような不利益を甘受しなければならないのか、その合理的根拠が明らかにされなければ、このような連座制は憲法一三条に抵触するとの批難を免れ得ない。

2 連座制の類型と合憲性

この点を明らかにするためには、先に述べた連座制の各類型毎にその根拠を検討する必要がある。

(一) 主宰者違反・当選無効型

この類型の連座制については、既に最高裁判所において、憲法一三条に違反しない旨の判断が示されている。最高裁昭和三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三七頁がそれであるが、同判決は、右類型の連座制は、「公職選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われたることを確保し、その当選を公明適正なる選挙の結果となすべき法意に出たるものと解するを相当とする。ところで、選挙運動の総括主宰者は、特定候補者のために、選挙運動の中心となって、その運動が行われる全地域に亘り、その運動全般を支配する実権をもつ者であるから、その者が公職選挙法二五一条の二掲記のような犯罪を行う場合においては、その犯罪行為は候補者の当選に相当な影響を与えるものと推測され、又その得票も必ずしも選挙人の自由な意思によるものとはいい難い。したがってその当選は、公正な選挙の結果によるものといえないから」、「当選人が総括主宰者の選任及び監督につき注意を怠ったかどうかにかかわりなく」、「当選人の当選を無効とすることが、選挙制度の本旨にかなう所以であるといわなければならない」と述べて、右類型の連座制の根拠の合理性を説明している。要するに、主宰者違反・当選無効型の連座制は、選挙の公正の回復という、選挙制度自体に本来的に内在する要請に基づくものであり、それ故に合憲の評価を得ることができるのである。

(二) 主宰者違反・立候補禁止型

これに対し、主宰者違反・立候補禁止型の連座制は、将来における選挙において、過去の選挙の非公正性を理由に候補者の立候補を禁止するものである。右最高裁判決の論旨を援用して、このような類型の連座制が合憲であるというためには、過去の選挙における総括主宰者等の選挙犯罪が何故に将来の選挙において、その公正性を害することになるのかの説明をすることが必要になるが、将来の選挙において当該総括主宰者等が選挙に関与し、又はそれに影響を与えるという必然性はないのであるから、一般的にそのような危険性を論証することは困難であるといわざるを得ない。

この類型の連座制の合憲性を根拠付ける唯一の方法は、総括主宰者等の過去の選挙犯罪により将来の選挙の公正性が害される蓋然性が現在において明白であり、かつ、立候補を禁止するほかに選挙の公正性を担保する方法がない場合に限定して、合憲性を認めるということしかないであろう。

(三) 運動管理者違反・当選無効型

運動管理者・当選無効型の連座制についても、前記のとおりこれが候補者等に対する「制裁」が主眼である点において、選挙の公正の回復を根拠とする前記最高裁判決の射程の範囲内にはないことは明らかである。この類型の連座制においては、運動管理者は組織の末端の者まで含まれる可能性があることは既に述べたとおりであり、そのような者による選挙犯罪が当該選挙の一部についての公正性に影響を与えることがあり得るとしても、それが候補者の当選を導くべき選挙全体の公正性に影響を与えているといえるのか、大いに疑問があるところである。このような一部の瑕疵を理由として選挙全体の効力を覆す結果を容認するこの類型の連座制も、その合理性を見出し難く、憲法一三条に違反すると断じざるを得ない。

この類型の連座制の合憲性を根拠付ける唯一の方法は、当該運動管理者に係る地区の得票を除くと選挙結果に影響を与える可能性があるなど、選挙の全体の公正性に影響を与える場合に限定して、合憲性を認めるという方法しかないと思料される。

(四) 運動管理者違反・立候補禁止型

運動管理者違反・立候補禁止型については、その合憲性について、前記(二)総括主宰者・立候補禁止型及び(三)運動管理者・当選無効型の両者の問題点を併有するものであり、その合憲性を論証することは極めて困難であるというべきである。

(五) 本件連座制と憲法一三条

本件で問題される連座制は、前記(三)及び(四)の類型に属するものであるが、これが憲法一三条に違反することは、既に述べてきたところから明らかである。

仮に、(三)及び(四)で述べたような限定解釈による合憲性が認められる余地があるとしても、本件では、当該箇所で述べたような限定要件を具備しているか否かについて、何らの審理も行われていないのであるから、破棄差戻により、その審理を尽くすべきである。

四 憲法三一条・三二条違反

1 法二五一条の三第一項は、組織的選挙運動管理者等とは、「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(以下「公職の候補者等」という。)と意思を通じて組織により行われる選挙運動において、当該選挙運動の計画の立案若しくは調整又は当該選挙運動に従事する者の指揮若しくは監督その他当該選挙運動の管理を行う者(前条第一項第一号から第三号までに掲げる者を除く。)をいう。」と定義する。いうまでもなく、この定義の解釈いかんによって、連座制の適用が左右されるわけであるが、一見してその文言自体が極めて不明確である。

まず、「組織」とは何であるかについて、前記上告理由第一点の一で指摘したとおり、法において定義や手がかりとなる規定は全くないから、それは、社会通念によって決するほかないことになる。そして、原判決は、前記のように、「『組織』とは、特定の候補者等を当選させる目的の下に、複数の人が、役割を分担し、相互の力を利用し合い、協力し合って活動する実態をもった人の集合体及びその連合体をいうと解すべきである。なお、組織には、通常は、何らかの指揮命令系統が存在する場合が多いと考えられるが、ピラミッド型でなく、水平的に役割を分担する場合には、指揮命令系統が存在しなくても、選挙運動を遂行し得る『組織』が形成されることがあり得ると考えられる」と判示するが、これが、「組織」というためには当該集合体自体の意思決定の仕組みを要しないという趣旨であれば、それは、上告人の理解する社会通念とはかけ離れている。もし、右判示が法における「組織」とは一般の社会通念上のそれよりも緩やかな人の集団で足りるという趣旨を含むのであれば、「組織」とは多義的かつあいまいなものとなり、その解釈適用について極めて法的安定性が欠ける状態となる。

また、「選挙運動の管理を行う者」とはいかなる者を指すのかも、極めて不明確である。新連座制の提案議員は、「選挙運動の管理を行う者」とは、「例えば、選挙運動従事者への弁当の手配、車の手配、個人演説会場の確保等、選挙運動の中で後方支援活動の管理を行う者を指しております。」と説明し(乙D一の二、一〇頁)、「選挙腐敗防止法の解説」では、「例えば、選挙運動従事者への弁当の手配、車の手配をとり仕切る、あるいは個人演説会場の確保をとり仕切る等、選挙運動における後方支援活動の管理を行う者を指す。」と解説されているが(同書八七頁)、この両者の解説は果たして同じ内容なのだろうか。後者の解説では、「とり仕切る」という言葉を加えているが、「指示」と同じような意味であるとすれば、いずれにしても、見方によっては末端あるいは末端に近い位置の選挙運動員までも「組織的選挙運動管理者等」になり得るということになってしまう。このように、「選挙運動の管理を行う者」の意義については、立法の当初からあいまいな状態だったのである。

このように不明確な規定の解釈適用によって、当選無効及び五年間の立候補禁止という、政治家たる候補者等の政治生命を奪うに等しい、刑罰よりはるかに苛酷な制裁を科すことは、憲法三一条に由来する罪刑法定主義に違反するといわなければならない。

2 運動管理者違反・当選無効型ないし運動管理者違反・立候補禁止型の新連座制適用の量刑上の要件は、組織的選挙運動管理者等が、執行猶予の言渡しの有無にかかわらず、禁錮以上の刑に処せられることであり、対象者が罰金刑になれば候補者等は連座を免れるのであるが、対象者自身にとっては、通常、判決の結論に対する最大の関心事は、実刑になるか否かということであって、執行猶予付きの判決を受けさえすればやむを得ないという気持で裁判に臨むことが少なくないと考えられる。

ところが、候補者等にとっては、対象者が有罪か無罪か、罰金刑になるか禁固以上の刑になるかということは、当選無効及び立候補禁止という重大な制裁を受けるか否かを決する極めて重要な事柄であるが、それにもかかわらず、候補者等は連座対象者の刑事手続に関与することはできず、法律上、自らその審理・判決の当否について一切争えないまま当該判断に服しなければならないことになる。これは、自らの法的地位の確定について法律上の手続が保障されていないということにほかならない。

憲法三一条による適正手続の保障は、個人の人権に至高の価値を置く憲法の精神に照らし、広い範囲に及ぶべきものであるとされている。すなわち、同条は、単に刑事手続の法定を定めるのみならず、その適正をも要求しており、さらに、刑事手続以外のものであっても、公権力によって人の自由が制限される場合に可能な限り適用ないし準用又は類推適用されるべきものと考えられる。

そして、右連座制が科す制裁は、前記のとおり当選無効及び五年間の立候補禁止という、政治家にとって刑事罰よりもはるかに苛酷なものであるから、その確定に当たっては、憲法三一条による適正手続の保障が与えられてしかるべきである(ちなみに、最高裁昭和三七年一一月二八日大法廷判決・刑集一六巻一一号一五九三頁は、関税法の第三者所有物没収規定(同法一一八条一項)に関して、「第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者にも及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁護(解)、防御の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害する制裁を科すことに外なら」ず、憲法二九条及び三一条に違反するとしている。これは、適正手続保障に関する数少ない最高裁判例であるが、新連座制は、関税法の第三者所有物没収規定と比して、「候補者等」に科せられる制裁がはるかに苛酷なものであるから、「候補者等」に対する適正手続保障の要請は、より高いといわなければならない。なお、最高裁昭和四六年一〇月二八日第一小法廷判決・民集二五巻七号一〇三七頁参照)。

候補者等には、本件のような当選訴訟制度によって弁解の機会が与えられているとする意見もあるかもしれないが、上告人が問題としているのは、「法二二一条等の罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたとき」という連座制適用の最も重要な要件の確定について候補者等が法律手続上関与できない点についてであり、当選訴訟制度があるということは、この点についての答えになっていない。

主宰者違反・当選無効型の連座制においては、それが、前述したように、客観的に不公正な方法で得られた選挙結果を覆して選挙の公正を回復しようとするものであるから、候補者等の個人の権利の保護の観点から、必ずしも直接右要件確定のための法律上の手続が用意されていなくても憲法三一条に違反しないという見方もあり得るだろうし、また、連座対象者が前記のとおり候補者等と一心同体的な立場にある者に限られているから、事実上候補者等に、連座対象者に対する刑事裁判において前記要件の確定について弁解の機会が与えられているという見方もあり得るだろう。

しかし、運動管理者違反・当選無効型ないし運動管理者違反・立候補禁止型の新連座制においては、事実上候補者等の監督の及ばない、選挙運動組織の末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動員の選挙違反行為によっても、候補者等個人に対し前記のような重大な制裁を科し得るのであるから、前記「法二二一条等の罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたとき」という要件を確定する手続の問題について、同列に論じることはできず、法律上直接候補者等のためにその手続が用意されていなければ、適正手続を保障している憲法三一条に違反するといわなければならない。

3 また、このように、候補者等に新連座制適用の最も重要な要件の確定に裁判手続上関与させないまま重大な制裁を科すことは、憲法三二条がいわゆる絶対権として保障している裁判を受ける権利を侵害するものであることも明らかである。

4 本件において、適正手続が保障されていないのは、裁判手続ばかりでなく、捜査手続においても同様である。特に上告人が問題であると考えるのは、検察官、警察官が、刑事事件の捜査として、その取調べの意味を何ら告知、説明することなく、被疑者らから行政訴訟「専用」又は行政訴訟「兼用」の調書を取って、本件訴訟の進行状況を見ながら小出しにしてきたことである(「専用」の検面調書の例として、甲三九、四〇、六六、六七、六八、八五、「兼用」の検面調書の例として、甲八、九、一一、一四、一七、二〇、四四。)。検察官の取調べを受けた被疑者らとしてみれば、例えば、「被告から選挙違反をしないように注意を受けたことがあるか」という質問を受けた場合に、自分の答えの意味するところを全く理解しないまま、「そういうことはありません」などと答えているのである。この場合、被疑者らとしては、検察官から特段の告知、説明がない限り、刑事事件としての取調べを受けていると理解するだろうから、被告から右のような注意を受けていたのにかかわらず選挙違反をしたということになると、自分はもとより被告の責任も重くなるかもしれないと考え、注意を受けたことがないという通り一遍の回答に終始してしまったとしても、何ら不自然ではない。ところがその答えが、被告にとっては「相当の注意」を怠ったとして致命傷になりかねないものなのである。

このような本件での捜査手続における不正義もまた、憲法三一条に違反するといわなければならない。

五 憲法一五条一項等違反

1 憲法一五条は、第一項において、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定めている。国民がこの選挙権を行使した結果が尊重されなければ、右権利を国民に保障した趣旨を無にするものであるから、同条項は、言葉を換えれば、国民の意思を反映した選挙結果が公権力によって安易に覆されることを禁じているものとみることができる。更に、憲法四三条一項の「両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」という規定、及び憲法九三条二項の「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」という規定もまた同様に、国民の意思を反映する選挙によって選ばれた者で国会及び地方議会を構成することを要求し、その選挙結果を覆すことを正当とし得る特段の合理的な理由がない限り、当選人の地位を保障しているものと解される。

もっとも、このような当選人の地位の保障は、当然に当該選挙が公正に行われたことを前提とするものと考えられるから、候補者自身の選挙犯罪があった場合や、前記昭和三七年の最高裁判例に表われたように、「総括主宰者」など選挙運動の中枢に位置する者に選挙犯罪があって、当選人の選挙運動全体が不公正に行われたと認められてもやむを得ない場合には、選挙の結果を覆しても、右憲法一五条一項等の趣旨に反するとはいえないであろう。しかし、それ以外の場合、すなわち選挙結果に大きな影響を及ぼすとはみられない程度の選挙違反行為があった場合(運動管理者違反・当選無効型の多くの場合がこれに該当する。)に、それを理由として選挙結果を覆すことは、公正な選挙によって表わされた多数選挙民の意思を無にすることになり、憲法一五条一項等の趣旨に反する。

新連座制の適用によって、事実上候補者の監督が及ばない、選挙運動組織の末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動員の選挙違反行為によって当選が無効となるならば、その選挙違反が選挙結果に与える影響はほとんどないか微々たるものであるにもかかわらず、多数選挙民の意思を覆すことになり、憲法一五条一項等に違反するといわなければならない。

2 憲法一五条一項は、選挙権を保障するほか、立候補の自由をも保障している(最高裁昭和四三年一二月四日大法廷判決・刑集二二巻一三号一四二五頁)。従って、被選挙権の合理的な理由に基づかない制限は、同条項に違反するというべきであるが、前述の五年間の立候補禁止の制裁は、選挙運動管理者等の選挙違反行為による選挙結果への影響がないにもかかわらず、これに比して政治家たる候補者等に余りにも苛酷なものであって、衡平を失するものであるから、到底、被選挙権の合理的な理由に基づく制限とはいえず、新連座制はこの点でも憲法一五条一項に違反するというべきである。

六 憲法一四条違反

1 新連座制導入後の公職選挙法においては、総括主宰者、出納責任者など候補者等と一心同体的な立場にある者の選挙犯罪によって候補者等の当選は無効とされ、かつ五年間立候補を禁止されるが(法二五一条の二第一項)、事実上候補者等の監督の及ばない、選挙運動組織の末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動員の選挙犯罪によっても、全く同様に当選は無効とされ、五年間立候補を禁止されるのである(法二五一条の三第一項)。

しかし、実際の選挙運動において、右のような総括主宰者等と組織的選挙運動管理者等とでは、候補者等からの距離に格段の差異があることは周知のところであり、このことは、特に国政選挙のような大がかりな選挙を念頭におけば、自明である。このような両者の候補者等からの距離の格段の差異を無視して、両者に全く同一の連座の効果を与えることは、後者に対する効果が相対的に著しく苛酷なものとなっていて、原判決が指摘する両者の適用要件の相違(原判決六一〜六三頁)を勘案したとしても、合理的理由の見い出し難い差別的取扱いであり、結局、この点において、憲法一四条に違反するものといわなければならない。

2 そもそも、改正法による新連座制の導入に当たっては、当初から、捜査当局の対処の仕方によっては、特定の候補者等が重点的に捜査の対象となり、苛酷な制裁を受けるおそれがあるという点が心配され、現に、前記調査特別委員会においても、各委員から再三にわたってその懸念が表明され、警察当局は、法改正の趣旨に沿った適正な取締まりが行われるよう、都道府県警察を指導する旨答弁しており、右調査特別委員会において平成六年法律第一〇五号が可決された際、

「二 公職選挙法違反の取締まりについては、今回の連座制の強化に伴い、その影響が一層広い範囲に及ぶこととなるので、政府は、従来に増して厳正公平を旨としてこれに当たるとともに、国民の選挙運動への自発的参加を損なうことのないよう十分留意するものとすること。」

との附帯決議(乙D一の五)が付されたのである。

しかし、いかに捜査機関が適正な取締まりを心がけたとしても、現状における捜査機関の員数的能力、選挙の際に全国で想定される、「組織的選挙運動管理者等」に該当する選挙運動員の数及び選挙違反の件数などを考えると、全国規模において取締りの公平を維持することは、実際上到底不可能なことである。このように、改正法による新連座制は、その制度自体においてその適用の公平を維持することが本来困難なものであり、被告に対する「ねらい打ち」は、まさにその表われにほかならない。このように、改正法による新連座制は、制度自体に差別的取扱いの本質を内包しているのであり、この点で憲法一四条に違反するものである。

七 適用違憲

1 仮に、法二五一条の三の規定自体は違憲でないとしても、原判決が認定したような改正法による新連座制の周知状況(原判決六五〜六七頁)では、その周知が不徹底であったことは否定できず、少なくとも本件にそれを適用する限りでは違憲といわざるを得ない。

2 本件選挙の際の右のような周知状況からすれば、選挙浄化という改正法による新連座制の趣旨は、本件選挙においては、その実効性が欠けているといわなければならない。

すなわち、改正法による新連座制は、候補者等が、新連座制の内容を知り、自己の陣営から違反者を出さないように努力をするという効果(以下「第一の効果」という。)と、末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動者等自身が、自分が選挙犯罪を犯せば候補者等に厳しい制裁が科されることを知って、違反しないようにする、という効果(以下「第二の効果」という。)を予定するものと考えられる。この二つの効果があればこそ、法改正による新連座制は、選挙浄化のための規定として妥当性を有するのである。

しかし、第一の効果に関しては、末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動者等に対しては、その実効性に限界があるといわざるを得ない。すなわち、候補者が直接注意を呼びかけることによってその違反を妨げる者の範囲は、通常は、候補者にごく近い者と、その者が管理する者である。従って、選挙運動者の範囲が非常に広範囲にわたる場合、候補者の注意が行き渡る範囲は限られる。候補者等がいかに選挙運動者の管理を徹底したとしても、末端にいけば、把握しきれない運動者は必ずいるもので、このような者については、候補者の注意によって選挙犯罪を思いとどまらせることは事実上不可能といってよい。つまり、「組織的選挙運動管理者等」に、右のような末端のあるいは末端に近い位置の者を含めて解する以上、候補者の注意だけによっては、選挙浄化という第一の効果は望むべくもないのである。従って、選挙浄化という目的を達するためには、末端のあるいは末端に近い位置の選挙運動者等が、自ら改正法による新連座制の内容を知り、候補者等が当選無効等の厳しい制裁を受けないようにするために選挙違反を思いとどまるという第二の効果によるところが大きい。

このようにみてくると、本件選挙の場合のように広く一般の者に対する周知措置がなされていないときには、改正法による新連座制は、右の第二の効果すら期待できず、その趣旨である選挙浄化に寄与し得ないのである。

3 このように周知が不徹底で改正法による新連座制が実効性を挙げ得ない状況において、本件であえて改正法による新連座制を適用して原告に当選無効及び五年間の立候補禁止の制裁を科すことは、前記三ないし六に詳論したのと同様の法理により憲法一三条、三一条、三二条、一五条一項、一四条等に違反するといわなければならない。

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